大判例

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仙台高等裁判所秋田支部 事件番号不詳〔2〕 判決

本籍並住居

秋田県仙北郡外小友村字悪戸野百二十八番地

杣夫兼製材職工

八嶋三郞

大正十三年七月一日生

右の者に対する労働基準法並職業安定法違反被告事件について、昭和二十四年十月六日秋田地方裁判所大曲支部において言渡した有罪の判決に対し、被告人から適法な控訴の申立があつたので当裁判所は次の通り判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

辞護人荒川正一の控訴理由は別紙控訴趣意書記載の通りである。

趣意第一点について。

併し本件起訴状記載の公訴事実を検討するに、記載中の所論指摘する「各求人との間」なる文言はその前後の文言特に斡旋等の文言と互に補い合い、之を「各求人、求職者間」と。亦「職業に介入」の文言は之に続いた職業紹介事業を行つたとの文言により之を就業に介入と解し得られ、全文を通読すれば本件公訴事実が労働基準法第六条及び職業安定法第三十二条所定の罪に該るべきを看取出来るので、その記載は刑事訴訟第二百五十六条、所謂訴因を明示したものといわねばならない。論旨は公訴事実全文の意義を沒却し単に単語の字句にこうでいした非難に過ぎず、到底首肯する理由がないから採用し得ない。

趣意第二点について。

併し原判決書を検討するにその判示中、本件起訴状記載の公訴事実を引用したとの記載もなく、その事実も見出し得ないので原判決が刑事訴訟規則第二百十八条を濫用したとの非難をうくべき毫末の理由がない。また同上判示中「職業に介入」なる文言もないし、其の他所論指摘するような瑕疵を見出し得ない。論旨は根拠のない独断といわねばならないから採用しない。

趣意第三点について。

併し原判決挙示の諸証拠により、被告人が法定の除外事由なく又労働大臣の許可もないのに利得の目的で原判決判示の職業紹介を三回繰りかえし、その都度同上判示の現金を貰い受けた事実、とりもなおさず労働基準法第六条の所謂業として他人の就業に介入して利益を得、同時に職業安定法第三十二条第一項所謂業として有料の職業紹介事業を行つた所為を認めるに十分である。

労働基準法の第六条の規定は雇主と就業者との間に介入して就業者から所謂「上前をはねる」所謂を禁止する趣旨であること所論の通りであるが、その法意はその法条明文に照らし広く法律に基いて許されてない業として周旋する第三者の利益を禁止すること明らかで、その直接うける利益は雇主からであると又は就業者からであるとその差異はない。又業として他人の就業に介入する者とは所論のように口入業者、労働請負業者、親方制ばかりでなく暗に継続的意思で同様所為をくりかえす者を含むと解するを相当とし、従つて紹介者は所論のように外見上業者として業態を備えてる所謂企業化されてるや否やの如きは問うべき限ではない。職業安定法に関する所謂業の法意前断と同旨であること説明するまでもない。

されば被告人が何等の資格なくして原判決判示のような紹介を繰りかえし、その都度現金を利得した以上、たとい求職者が親戚、知己であり、求職者から直接その報酬を受けなかつたとするもその所為は同法第三十二条第一項所定の有料の職業紹介事業を行つたものと認めざるを得ない。且被告人が所論の如く求人者宮竹紡績株式会社募集人とするも記録にあらわれた証拠により被告人には前認定のように法に基く何等の資格がないこと明らかなので原判決が判示事実を認定し判示法条を適用したのは洵当で、所論指摘のような毫末の法令適用の誤りがないので論旨は到底採用し難い。

趣意第四点について。

しかし前段認定の通り、原判決挙示の諸証拠により優に原判決判示事実を認定するに足り、所論指摘の資料を以て之を覆すに足らないので原審に審理不尽とか原判決に事実誤認があるとの論旨は採用し難い。

趣意第五点の原判決は量刑不当だとの論旨について。

記録によれば被告人が弁護人を依頼せず、原審において一切の訴訟手続を終え結審判決したことは所論の通りであるが、原審第一回公判調書によれば、被告人は本件公訴事実中第一、二点については犯意を否認しその経緯を陳べて之が弁疏を尽くし、同上第三、四の点は犯罪を自認したことを認めるのである。其の後原審においては比較的軽微な本件事按のため公判を開廷すること判決言渡期日とも通じて五回に及び其の間犯罪の成否のみならず情状に関しても真相の究明に取調べを尽くしたことを十分窺い得る。現に被告人の自認した公訴事実第四点を犯罪の証明ないと認定したことは正に之が証左の一端であり取調を尽さないとの非難をうける謂がない。

原審公判調書中には被告人の弁疏として、自分は宮竹紡績株式会社の人事主任中村貞夫から姉を通じて女工を世話してくれと依頼をうけたが、許可をうけねば他人の就職を斡旋することができないことを知つていたので許可証がないから駄目だと断つた。その後同人から許可証と手紙が来たので八嶋ヤエ、佐藤ケサヨ、打川スワの就職を斡旋したとの供述はあるが、右弁疏中の許可証が来たとの点は遁辞に過ぎないことは前段説示の証拠により明らかであり、なお被告人が正式の募集人資格があると固く信じていたとの点、亦被告人が本件所為を何等違法でなく社会の美徳であると確信していたとの所論は記録中何れも之を認め得る資料がない。而して本件は主として年少の子女若年者を世事に疏いその保護者の判断丈によつて相当長期に亘り子女若年者の自由に拘束を生ぜしむるような条件で雇傭関係を設定する所謂「人買い」行為に類し、従来有識美良な一般人から瀕斥されていたものに係り、ましてや個人の基本的人権の尊重を要請する新憲法下その犯情は軽くない。されば被告人に対し懲役三月の実刑を言渡した原審の量刑を過重となす理由を発見し難いので論旨は到底採用に値しない。

結局本件控訴は理由がないので、刑事訴訟法第三百九十六条により主文の通り判決する。

(裁判長判事 小山章 判事 村上武 判事 今泉勘七)

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